居酒屋Yのママのお話
- Marico Isii
- 2015年5月28日
- 読了時間: 2分
釜石の居酒屋の名物ママ。いち早く再建された店はいつも地元の人や復興事業で滞在する人たちでにぎわっている
避難所には4か月いたわよ。最初は着の身着のままでね。全財産はポケットに入ってた50円だけ。それから避難所暮らしが始まったさ。
もうね、やることないから、毎日歩くのよ。もちろん行くあてなんかあるわけじゃなし、元の線路に沿ってね。ずーっと歩くの。そんな人がいっぱいよ。
避難所の人かどうかは一目でわかるのさ。リュック背負ってっから。大事なものぜーんぶ入れて持ち運ぶの。置いとける場所ないんだから。ちぐはぐなカッコしてリュック背負ってる人はみんな避難所暮らしよ。
だけどね、みーんな明るいのさ。笑ってばかり。よその人が見たらびっくりしたかもね。とにかく明るいから。誰もつらい話なんかしない。そんな話みんながし出したらきりないし、聞きたくもないから。お互い様だもの。だからみんな笑って話せる話しかしないのさ。
震災からちょっと経って、常連のお客さんにばったり会ったの。「ああ生きてたのねえ。よかった。」ってお互い言って、それから「どうなの?」って聞いたら、「身内が二人見つからねえんだ」って言うの。てっきり親戚か、職場の人のことだと思って、その時は「そうなの。」って別れたけど、実は奥さんと娘さんのことだったのよ。後で人から聞いてわかったのさ。
「女房と子供が」って言ってくれたら、こっちも別な言いようがあったけど、そうは言わないの。「身内が」って言うのよ。
その気持ちわかるさ。知らされた相手のことも考えるし、言ってどうなるもんでもないってのもある。でもそれよりも、言いたくないのよ。言葉にしたくないの。「子供が見つからない」って。
それがわかるから、それから会っても聞かないし、言わない。今もね。
***<思ったこと>***
言わないことと言えないこと。ひとりひとりの胸の中にあります。
それは外の笑顔からは見えにくいかもしれません。
その笑顔も、無理に心を偽っているのではなく、この場を、自分を明るく照らそうとする意志。
表面だけを見るのではなく、無理に裏を覗き込むのでもなく、その意志の笑顔をそのまま大切に受け取りたいと思いました。
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